一夜明けて。

生まれて来てくれてありがとう。


君がこの文章を読むのはいつになるでしょうね。
漢字が読める年齢にならないと理解が出来ないだろうし、中学生くらいになったら、ここの事を教えてみようかな?
その頃までこの記事が残っているか分からないけどね。


詳細は書けないけれど、お母ちゃんの体に負担を掛けない、丁度いい大きさと重さで君は生まれてきました。
と同時にお父ちゃん孝行でもあったね。
君はお腹の中にいる間、ずーっと逆子でした。後期になると、首にへその緒が巻き付いているから、それでグルンと回れないのかも、とお医者さんに脅されて、お母ちゃんと二人、毎日不安で不安で仕方がなかった。
だけど、そのおかげで(と言ってしまって良いのか分かりませんが)、君は帝王切開という方法でこの世に誕生しました。帝王切開は、お母ちゃんのお腹をお医者さんが切って、君を取り上げる手術です。なので、前もって「いつやりますよ」という予定が組まれました。それが5月の後半だったので、仕事場で計画表(シフトです)を作っているお父ちゃんは、自分をその日、休みにする事が出来ました。
だから、君がこの世に誕生した瞬間、お父ちゃんも、その場に居合わせる事が出来たのです。
それは、君が呼んでくれたのだと思っています。

「あたちはずっとこの態勢なのです。こうしているとお父ちゃんにすぐ会えるから、この態勢で行くのです」

お腹の中で仁王立ちしている君を想像して、ニンマリ、ほっこり、親馬鹿とはこの事です。


生後2日目にこれを書いています。
君の目が本当に見えているか、君の耳が本当に聞こえているか、まだわかりません。
だけど、生まれて間もない君を抱っこした時、ちゃんと目が合いました。
もし、もしも、見えなかったとしても、聞こえなかったとしても、
お父ちゃんは君の側にいるし、君に話かけるからね。心配しないで欲しい。約束します。



君を産んだ時の、お母ちゃんの事を書きます。
お母ちゃんは、頭に緑色のネットみたいな帽子を被り、助産師さんと共に、歩いて、分娩室に入って行きました。振り返って、手を振ってから、入って行きました。
お母ちゃんは普段とても心配性で、病院に検診に行く時は、いつもお父ちゃんに「大丈夫って言って」とお願いしていました。
お父ちゃんが仕事をしている時でも、「いつものやつ言って」と連絡が来るので、そのうち、連絡が来る前に、お父ちゃんの方から、「大丈夫」と言っていました。
だけど、ついに君を出産する瞬間がやって来た時、お母ちゃんは、嬉しそうに笑っていました。
お父ちゃんは同じ部屋にはいませんでした。
自然分娩ではなく帝王切開だったからなのか、それはわかりませんが、お父ちゃんは、お母ちゃんのお母ちゃんと一緒に、廊下で待っていました。
お母ちゃんが分娩室に運ばれてから30分程で君は生まれましたが、その間とても長く感じました。
別の部屋には何人か新生児が眠っていたので、最初、どこからか泣き声が聞こえて来た時、君だと分かりませんでした。
どこかで、そうかもしれないと思いながらも、糠喜びはしたくない思いで、気づかない振りをしていました。
側を通りかかった助産師さんに、
「お生まれになられましたよー、元気ですよー」
と声を掛けてもらい、ようやく、ほっと胸を撫で下ろしました。
分娩室のドアはまだ閉まったままでしたが、君の泣き声が外まで聞こえてきました。
短く区切るような泣き声に、「こういう泣き方であってるのかな?もっと長く泣き続けるものなんじゃないかな?」と不安になりながら、君とお母ちゃんが出て来るのを今か今かと待っていました。
分娩室から先に出て来たのは君です。
助産師さんに抱っこされて、タオルで体を拭いてもらった後、
お父ちゃんが呼ばれて、写真を撮らせてもらいました。
初対面です。
「大きい!」
最初に思ったのはそれです。
君が綺麗に体を伸ばしている写真が、今でも残っていると思います。
写真を数枚撮った後、お母ちゃんの様子を尋ねると、まだ頑張って体を縫い合わせている所です、と教えてもらいました。
お父ちゃんと、おばあちゃんが君に夢中になっていると、ストレッチャーに乗ったお母ちゃんが分娩室から出てきました。
麻酔が効いていて、自分一人では動けない様子でした。
何人かの助産師さんと担当のお医者さんがお母ちゃんを取り囲んでいます。
お父ちゃんも呼ばれて、お母ちゃんの体を皆で抱え上げてベッドに移しました。
一瞬、動かないお母ちゃんを見てとても怖くなったのを、お父ちゃんは一生忘れないと思います。
お母ちゃんの意識はありました。
顔を覗き込むと、目もちゃんと開いていました。
汗で前髪が乱れて、顔が真っ赤になって、瞳が潤んだ状態のお母ちゃんを見た時が、その日一番泣きそうになった瞬間です。
お父ちゃんはお母ちゃんの事が大好きなのです。
君を無事に産むために頑張って来たお母ちゃんをずっと見て来て、
笑顔で分娩室に歩いて行った背中も見送りました。
戻って来たお母ちゃんの戦い終えた姿を見て、なんて綺麗なんだろう。なんて格好良いんだろう。そう思いました。
おばあちゃんが側にいたので、恥ずかしいから泣きませんでしたけど、
でも、泣きそうでした。
「ありがとう」と言ってお母ちゃんの手を握った時、一瞬、お母ちゃんも泣き顔になりました。だけど麻酔が効いているせいか、その後しばらくは朦朧としていました。早口で、ちょっと何を言っているかわかりませんでした。すぐに、元のお母ちゃんに戻りましたけどね。
お母ちゃんはそれからしばらく、麻酔が切れるにつれてやって来る痛みと闘っていました。
お父ちゃんの方が一杯君をダッコ出来たので、申し訳ないくらいでした。
ちゃんと君の名前を決めたのも、君が生まれた後、病室にて、です。
名前はずっと前から決まっていたけど、漢字がなかなか決まらず、最後はお父ちゃんが決めました。
気に入ってくれていると、いいのですが。



お父ちゃんもお母ちゃんも、ずーっと君が生まれてくる事を楽しみにしていました。
もしこの記事を読む日が来るとして、その時、君の側にちゃんとお父ちゃんとお母ちゃんがいて、君が笑顔で毎日を過ごしているなら、最高に幸せです。



君は今、幸せですか?