「言葉を残そう」

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ただのダッチワイフじゃないんだい

思い出せる始まりは多分、映画「パッチギ」。その時は特に印象に残ったわけではないけれど、おもしろいな、と思った記憶がかすかにある。後になって、TVドラマ「時効警察」を見ていて、アレ?と首を捻る。どこかで…。そして彼女の勧めで映画「ジョゼと虎と魚たち」を見て、アア!とパズルのピースが嵌る。
女優、江口のりこ。好きだ。役として、ばーんと主役、ヒロインをはるような方ではないけれど(失礼か)、確かで滑らかな演技と独特の雰囲気にたちまち魅了されて。そうすると他の作品はないかと探すわけで、出会った映画が「月とチェリー」。「ジョゼ」も「チェリー」も両方DVD買って見たわけですが、彼女の出てる映画にはずれはない。初めて江口のりこを主役として見た映画が「月とチェリー」だけど、主役というポジションでも変わらない彼女の素に近い演技は素晴らしかった。官能小説に書くネタを取材するためだけに次々と周囲の男を誘ってはSEXする。そんな女子大学生を、全然いやらしさを感じさせずに演じられるのは彼女以外にいない。ネタにされるとは知らずに彼女を抱いて、まんまと好きになってしまう同じサークルの男子学生との、恋愛未満の関係が物語の軸なんだけど、ただひたすらに面白い。笑わせる。そして最後にちょっとホロリと来る。スケールは小さいながらも、人間を描いた邦画として、かなり完成度が高い。これ以上でもこれ以下でも駄目、という見事な落とし所でエンディング。巧いなーと思ってクレジットを見ていると、監督は今日本映画界を少しばかり賑せているタナダユキさん。女性なんですね。なるほどなーと。彼女自身、女流監督などとあえて女であることを強調した肩書きは嫌だろうけど、この映画に関しては男の監督じゃあこうはいかないよな、と納得してしまった。
そんな事がありまして、タナダユキという名前をアンテナに引っ掛けたまま仕事ばしてますと、新刊書籍でなんと彼女の初小説単行本が入荷するではありませんか。帯には「百万円と苦虫女」監督の〜という謳い文句が踊り、少しミーハーな気はしましたが、即買い。
その名も「ロマンスドール」。分かりやすく言えばダッチワイフ業界の話なんですが、全然専門知識のいらない、ピュアな愛情物語でした。最近は本を買っても全部ストックに溜まって行き、昔買ったものから順番に読んでいくためすぐには手をつけないんですが、今度ばかりは買ってすぐに読みました。そのまま読破。最近読んだ小説の中では、かなり面白かったです。バイトの女の子にお勧めの本ありますかと聞かれて、迷いながらもコレを勧めた。きちとんと内容を理解してくれれば絶対セクハラにはならないはず!と信じて。まだ21、2の若い子でしたが「面白かったです!」という感想をくれてホッとしました。「エロくて読めませんでした」なんて言われたら膝から崩れ落ちるとこでしたよ。
めちゃくちゃ好きになった彼女が腹上死して、その彼女そっくりのダッチワイフを作ってしまう男の話なんですけど、それは本当に大雑把な説明でしかなく、出会いから、すれ違い、仕事での男の葛藤、身近な人間の死、愛する人の死、自分の未来、色々な人生の壁をストレートに、リアルに、受けとめて前に進んでいくという捻りや屈折のない素直な人生賛歌です。これは本気でお勧めです!